Distance of love 2


                         

「・・・何かさ。」

 「え?」

 「何かこうして一緒に帰るのって久しぶりな気がしません?」

 「・・・そうだね。」

肩を並べて歩いているリョーマがふと口にした言葉に不二は頷くとふっと目を細めた。

 ・・・あれから一週間か・・・

・・・結局、あの後、キスから先に進もうとしないリョーマに不二が小首を傾げれば、彼は、もうすぐ家の者が帰ってくるから、と笑ってみせて。

せっかくのチャンスだけど、いいところで邪魔されたくないしね、いたずらっぽくそう囁きかけられ、頬が赤らむのを感じながら、不二は同時に彼の優しさに感謝していた。

やはり心の準備はしたかった。

あのまま事を進めていたら、どこかでセックスに対する嫌悪感を引きずっている自分は彼を拒絶してしまっていたかもしれないから。

でも、長く間を置けば今度はひるんでしまいそうで、ちょうど一週間後に母と姉が旅行を控えていたのを思い出して、不二は自分の背中を押した。

 “来週末、家に来てくれる?”

あの後、わざわざ家まで送ってくれたリョーマにそう告げれば、彼は驚いたような顔をして自分を見た後、本当に嬉しそうに笑って自分を抱きしめてくれた。

あれからまた予定が合わなくて帰る機会がなかったけれど、取り留めないメールや電話、そしてあのリョーマの笑顔を思い出し、寂しさは感じなかった。

そして迎えた今日という日。

 

 「そういえばオレ、先輩のウチは初めてっすね。」

 「そうだったね。」 

家の鍵を開け、入るように促せば、お邪魔します、と小さく頭を下げたリョーマがやけに可愛く映り、不二はちょっと笑う。

「僕の部屋、階段を上がってすぐの部屋なんだ。先に上がっていてくれる?」

「・・・っす。」

言われるままに二階に上がっていくリョーマの後姿を見送っておいて不二はキッチンへと入り、飲み物の支度をする。

冷蔵庫を開け、彼がいつも愛飲しているジュースをくすぐったいような気持ちで取り出しグラスとともにトレイへ乗せると、彼が待つ自室へと向かった。

 「・・・越前?」

階段を上り、ドアを開けると、リョーマは本棚を見ていた。

「気になる雑誌、ある?」

手にしたトレイを傍らへと置いてそう声をかければ、いくつかは、という答えが返ってくる。

「読んでみる?」

 「・・・今日はいいっす。」

 「・・・そう。」 

何やら素っ気ない返事もこれからのことを考えて緊張しているせいなんだろうか・・・などと考えていると

「・・・ねぇ、わざわざ布団、用意したの?」

 「・・・え・・・」

不意にそう言われ、リョーマの視線をたどって振り返れば、部屋の片隅に寝具の一式が重ねて置いてあって。

「ああ、後輩が泊まりに来るって言っておいたから、たぶん母さんか姉さんが用意してくれたんだと思うけど。」

まさか必要ない、なんて言えないし、と不二は内心で苦笑する。

 「・・・で、どうします?今日は別の布団で寝ますか??」

 「・・・え・・・」

 「オレとしては一緒の布団に寝たいんすけど?」

 「・・・焦らない、なんて言って結構せっかちなんだね?」

ちょっと拗ねたような目で自分を見つめてきたリョーマに不二は苦笑する。

 「あれは・・・あんたがオレをそういう意味で意識してくれるまでの話っす。ぐずぐずしてたらあんた、逃げちゃいそうだから。」

 「・・・越前・・・」

 「ねぇ・・・オレは本気だよ?」

ふっと表情を改め、リョーマは不二を見つめる。

 「・・・好きだよ、先輩。」

 「・・・わかってる。」

腕を伸ばし、自分を抱きしめてきたリョーマの髪を不二はそっと撫でる。

 「僕も迷うのはやめたから。」

 「・・・先輩・・・」

自ら腰を折り、リョーマの唇に口付ければゆっくりと彼の手が首裏へと回るのを感じる。

 「もう・・・逃げたりなんかしないから。」

そう囁いて不二は瞳を閉じた。

 

 「ふ・・・ぁ・・・っ」

長い長いキスの後、力が抜けたようになった不二の体をそっとベッドへと横たえたリョーマはそっと彼のシャツのボタンに指をかけた。

ひとつ、またひとつと外すたびにあらわになっていく肌は、いつか夢で見たのと同じように白くて滑らかで、そのことに改めて感動しながら、リョーマはそれをゆっくりと唇と指で触れていく。

でも、そんな愛撫に慣れていないのか、身を縮ませるようにする不二にリョーマは眉を寄せる。

 「・・・怖い?」

 「・・・大丈夫。」

そう言う声は硬く、隠してはいるが、やはり完全には忌まわしい記憶が抜けきっていないのだとリョーマは悟る。

だったらできる限り優しくしてやりたい。そんな記憶をこの手で塗り替えたい、そう思い壊れ物を扱うように優しくその肌に触れていく。

・・・と、不意に腕の中の不二がくすり、と笑い、自分を見上げてきたのにリョーマは眉を寄せた。

「何すか?くすぐったいの??」

そんな問いに不二はゆるゆると首を振ると、その手をリョーマの背中へと回す。

リョーマがこの上もなく優しく自分を扱おうとしているのがわかる。

それが嬉しくて、不二は彼の背中を抱き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

 「せ、先輩?」

 「・・・好きだよ・・・」

 「・・・え・・・」

 「君が・・・好き・・・」

 「・・・あ・・・」

 「?どうしたの??」

今度はリョーマが笑みを漏らし、そのことに気づいた不二が小首を傾げる。

 「・・・前さ・・・」

 「?」

 「前、オレ、あんたの夢見たんだ。」

 「夢・・・?」

 「その夢の中で、あんたにそう言われて、オレ、暴走しちゃったんす。」

リョーマは苦笑しながら事の発端になった夢の話をすることにする。

 「暴走・・・って?」

 「・・・・・」

 「・・・ああ・・・」

リョーマの顔つきで少し遅れて不二はその意味を理解する。

 「で、その夢があんまり生々しくて、それであんたをその・・・避けてたんだけど、保健室でもあんたにそう言われて、つい・・・」

 「そう・・・なんだ。」

 「あの時はびっくりさせてごめん。」

 「・・・え・・・」

 「だってあんたあの時、すごく驚いてたじゃん。」

 「・・・そうだっけ・・・」

 「結構な力で振り払われちゃったから、てっきりオレもう駄目かと思ったし。」

 「・・・・・」

 「・・・先輩?」

 「・・・あの時、君を振り払ったのは・・・怖かったからじゃないんだ。」

 「・・・え・・・」

あの時のことを思い出し、不二は苦笑する。

リョーマにいきなり触れられて驚いたことは驚いたけれど、今まで直接的な事をされなければ反応なんかしなかった身体が、あれだけの事で目覚めそうになったことにもっと驚いたのだ。

でも、こんなことをリョーマに告げるのはいかんせん恥ずかしい。

「・・・先輩・・・?」

ふ・・・と自分から目をそらし、背中を向けてしまった不二にリョーマは小首を傾げる。

「先輩??」

「・・・夢の中の・・・」

何かへそを曲げさせるようなことを言っただろうか、と少し焦って声をかければ、不二がぽつり、と呟いた。

 「?」

 「夢の中の僕は・・・どんなだった?」

 「・・・綺麗でしたよ、すごく。」

 「・・・そう・・・」

 「でも、今のあんたのほうがずっと綺麗。」

 「!・・・えち・・・っ」

 「好きですよ、先輩・・・」

真っ赤になってこちらを振り返った不二の顔が可愛くて、リョーマは不二の鼻先にキスする。

 「だから、いいよね・・・?」

 「・・・嫌だ、といったら聞いてくれるの?」

 「それは・・・」

自分の言葉にふと口ごもり、恨めしそうな顔をして自分を見上げてくるリョーマに不二はくすくすと笑う。

このくらいにしておかないと彼は完全にへそを曲げてしまうだろう。そうしたらせっかく勇気を出して彼を誘ったのも水の泡になってしまう。気づけば笑った事で緊張もすっかり解けているのを感じ、不二は微笑みながら再びリョーマを抱き寄せる。

 「さっきも言ったでしょ?もう逃げないって。」

 「先輩・・・」

そう言って自分の胸に頬を摺り寄せてきた不二の身体をリョーマはしっかりと抱きしめた。

 

 

 「・・・ん、ああ・・・」

ゆっくりと、だが確実にリョーマに快感を煽られ、不二の思考は次第にぼやけていく。

 「気持ち、いいんだ・・・」

 「・・・あ・・・」

ふっと耳元で囁かれ、瞳を開ければ、すぐ傍に笑っているリョーマの顔があって。

 「ここ、こんなになってるっす。」

 「あ!」

いつの間にかに立ち上がっていたそこを優しく包まれて不二は声を上げる。

 「大丈夫、乱暴にはしませんから。」

 「しません・・・って何を・・・っ、あ!」

笑ったままのリョーマの顔が下肢へと沈んだ次の瞬間、ものすごい快感が襲い掛かってきたのに不二は思わず声を上げた。

腿に触れる黒髪と、それに添えられた彼の手にリョーマが自分のものを咥えているのだと悟り、火が出るかと思うほどの差恥感が全身を苛む。同時に腰が砕けそうなほどの快感に不二の身体ががくがくと身体が震えた。

 「やっ、やめ・・・っ!」

何とかリョーマの頭を押し戻そうとする両手には力が入らず、彼の髪をかき乱す程度の動きしか取れない。

これではまるでもっと、とねだっているようだ、と新たな差恥が不二を包む。

こんなことをされるのは初めてだ。

指でしごかれたり、手のひらでこすられたりした事はあるが、自分たちの快楽を満たすほうが先だった相手の扱いはいたってがさつで、痛みすら伴っていたそれと比べると天と地ほどの差がある。

 「んっ、はっっ!」

先端のあたりを唇でしごかれ、根元のほうも輪を作った手で刺激され、あまりの快感に不二はただ震え、身体を縮ませる。

 「う・・・あ!ああっ、あ!」

一定のリズムで唇から出し入れされ、扱きたてられると信じられないほどの甘い声が出てしまい、慌てて口を噤もうと身を捩った瞬間、いきなり絶頂が来た。

 「・・・っ、ぁあああっ!!」

頭の中が真っ白になるほどの強烈な快感と、断続的に来る痙攣に身体をのけ反らせながら、不二は自身を解放する。

 「・・・っは・・・ああ・・・!」

気を失いそうなほどの快楽を伴った解放感の余韻と、重たくまつわりつく下肢の倦怠感に荒く息を弾ませ、しばし茫然自失の体の不二だったが、自分の足元でリョーマが軽くむせているのに気づくとうろたえて真っ赤になった。

 「ご、ごめん。」

 「いいっすよ。」

慌てて起き上がろうとする不二の肩を押しとどめてリョーマは苦笑する。

 「あんた、気持ちよくなってくれたみたいだし。」

 「・・・っ・・・」

リョーマの言葉に耳まで赤くなるのがわかり、不二は慌ててそっぽを向き、腕で顔を隠すようにして彼に背中を向ける。

 「・・・先輩・・・」

自分の愛撫全てに初々しい反応を見せる不二が愛おしくて、リョーマはゆっくりとそんな彼の背中を抱きしめる。

 「ねぇ・・・大丈夫?」

 「・・・うん・・・」

自分が問いかけたその意味がわかったのか、少しの間をおいて決心を固めるように肯いた不二に愛おしさを募らせながらリョーマはその綺麗なうなじにそっと唇を落とす。

 「あっ!」

不意に腰を高く掲げられ、双丘を割られ、ついで、何かぬるつくようなものを蕾に塗られ不二は驚きに声を上げた。

 「大丈夫。ただの潤滑剤だから。」

 「ふ・・・あ・・・」

身体を固くする不二を宥めつつ、ゆっくりとリョーマは自分の指を彼の体内へと挿入する。 「大丈夫?」

 「・・・うん。」

先に塗られた潤滑剤とやらのおかげで痛みはなかったが、滑りがよいせいか自分の奥を広げていくリョーマの指の動きがひどくリアルに感じられ、不二は頬を染める。

 「・・・ん、ああ・・・」

2本、3本と次第に指を増やされ、時間をかけてほぐされていくうちに、不二の体内に不思議な感覚が芽生え始めていた。

それはいびつではあったが快感と呼んでもいいもので、その刺激に頭の芯がじいん、と痺れていくのを感じる。

 「あ・・・あ・・・っ!」

リョーマの指が自分の中でだんだんと動きを増していくにつれ、頭の痺れは全身へと染み渡っていき、不二はたまらず声を上げる。

 「・・・先輩・・・」

自分の指の動きに合わせて腰を揺らしつつ喘ぐ不二の綺麗な横顔にリョーマはごくり、と喉を鳴らす。

同時にこれまでの我慢が一気に限界に達したのを感じ、リョーマは不二の中を犯していた指を引き抜いた。

 「あ・・・ああ・・・」

リョーマの指が抜け落ちていく感覚に不二は声を上げ、身を捩る。

その動きはとてつもなく色っぽく、リョーマは下半身に一気に血が集まるのを感じた。

 「先輩、いいっすか?」

 「・・・え・・・」

 「・・・あんたに入れたい・・・」

低くかすれた声には切羽詰った響きがあり、それにつられるように不二はこっくりと肯く。

その答えを待ちかねていたように腰を抱えなおされ、入り口にリョーマのものをあてがわれる感覚に不二は息を詰めた。

 「!あっ!!」

ゆっくりと押し入ってきたそれは指とは比べ物にならない程熱く、その強烈な圧迫感に不二は小さく声を上げ、息を呑む。

 「う・・・っ!あっ、ああっっ!!」

自分の中を押し広げるようにしてリョーマのものが進んでくるのに思わず声を上げながら、あれだけ馴らされたというのに受け入れる時はやはり苦しいものなのか、とぼんやりと思う。

「先輩っ、力、抜いて・・・っっ!」

 “・・・えちぜん・・・”

必死なリョーマの声をどこか遠くで聞きながら、不二は大きく息を吐き出し、力を抜こうとする。

 「!あっっ!!」

 「・・・く・・・っ!」

不二の身体の緊張がわずかに緩んだその隙に一気に身体を進め、ようやく自分を全部埋め終えたリョーマは、自分を受け入れた衝撃に震えるその背中にいくつも口付けを落とした。

 「・・・入ったよ・・・」

 「・・・ん・・・」

その言葉に首をめぐらせ、リョーマのほうを向いた不二の顔は紙のように白く、寄せられた眉が彼の苦痛を物語っていたが、リョーマと目が合った瞬間、彼はこの上なく幸せそうに微笑んだ。

 「気持ち、いい?」

 「・・・うん。あんたは?」

 「少し・・・きついかな?・・・でも・・・大丈夫だよ。」

 「・・・先輩・・・」

 「・・・動いてもいいよ、越前。」

そう不二が優しく囁いてくれたのにこの上ない喜びを覚えつつ、リョーマはゆっくりと腰を動かし始める。

 「う・・・く!」 

「先輩・・・」

ああは言ったものの、まだ快楽よりも苦痛の方が大きいであろう彼に、少しでも快楽を与えたいと、彼の分身に手を伸ばし握りこめば、それを喜ぶかのようにリョーマの手のひらの中で質量を増す。

 「!う!ああ・・・っ、んっ!」

指を絡めて扱いてやれば艶めかしい声とともにリョーマを飲み込んでいる不二の中がぎゅっと締まる。

 「・・・くっ・・・」

断続的に起こる締め付けと、誘い込むような不二の中の動きにリョーマは呻く。

その恐ろしいほどの気持ちよさに、今まで我慢していた欲望に一気に火がつき、リョーマは夢中になって不二を扱きながら、腰を送り込み始めた。

「あうっ!・・・あっ、あっ、あっ、あ!」

自分に突き上げられる苦しさからか、それとも直接に与えられる刺激からか、不二は悲鳴のような喘ぎ声をあげ、腰をうねらす。

 「先輩っ、先輩っ、先輩っ!」

 「えちぜ・・・っ、う、あっ!」

絞り上げるようにシーツを掴み、リョーマの荒々しい律動に耐えながらも、不二はその動きの中にも快楽を拾い始める。

「先輩・・・ここ・・・?」

 「!あ・・・ぅっ!!」

 

そんな不二の様子を察してか、リョーマは不二の感じる場所を探すべく角度を変えて突き始める。

「ここ・・・っすね?」

 「!っや!!」

程なく探し当てられた箇所を何度も深く突かれ、同時に自身をいいように嬲られ、不二は息が止まるほどの快楽に身体を震わせた。

 「あ・・・あっ、あ!あうっっ!!」

こんな快楽は知らない。

与えられる前の刺激と後ろの刺激に頭がおかしくなりそうだ。

この狂おしい程の喜びを与えてくれているのが自分の恋する人だという事実がいっそう不二を狂わせる。

 「う、あ、あっ!」

もう痛みなどなかった。身体がどろどろに溶けていきそうな快楽の中、目前に訪れた絶頂に恐ろしさすら感じ、不二は激しくかぶりを振る。

 「え・・・ちぜん・・・っ、も、もう・・・っ」

「オ・・・レも・・・っ!」

与える動きをそのまま跳ね返すかのように不二の中はリョーマに絡みつき、そして締め付けてくる。

合わせて不二の痴態と嬌声を目の前にしてリョーマの絶頂もそこまで来ていた。

 「あ・・・っっ、あああ!」

搾り出すような声と共に不二が身体をしならせ、リョーマの手のひらに自身の熱を吐き出す。

 「!く・・・っっ!!」

同時に不二の中が一際きつく締まり、リョーマはたまらず自身を解放する。

そのまま折り重なるようにベッドと倒れ付した二人は荒い息の下、恋する相手を手に入れた喜びにこの上ない満足感と幸福を噛み締めていた・・・